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債権回収の視点

融資業務にかかわる金融機関職員は、債権回収業務ができて一人前

融資判断の目的は、融資が安全確実に回収され、かつ所期の目論見どおりに収益を獲得できるか否かを見通すことに尽きるが、不幸にして融資の全部または一部の回収が危ぶまれる状況になった場合に、回収業務のスムーズな進行が確保され支障が生じないことを事前に検証しておくことも大切である。債権回収業務は金融機関の融資業務において不可欠なものであり、そして融資業務は金融機関経営の根幹を成すものであるから、金融機関職員は債権回収業務ができて一人前といえる。

最近は不良債権のオフバランス化等の必要上から回収業務の一部をサービサー等へ外部委託するケースも見受けられるが、それは金融機関業務の本筋からは外れた便宜的な手段にとどまるものであり、回収業務の外部委託化の行き過ぎは、融資業務のモラルダウンを惹き起す懸念がある。融資案件の審査段階で将来の債権回収の場面を予見して対応するということはピンとこないもので、そのような事態に立ち至らぬよう注意することが第一であるが、融資に信用リスクは付き物であり、万一の事態に備えての対策は考えておかなければならない。たとえば保全対策の検討段階では、次のような事項を考慮しておくべきである。

①担保物件を選択する際には、担保価値が相当で処分が容易な物件を優先する。
たとえば遠隔地の物件は、評価判定がむずかしいので避けることがべターである。また、寝たきりの老齢者や身体障害者等が居住している物件は、処分が難航することが多い。公共的用途の物件も同様である。

②代表者以外の保証人には、資力があり保証履行交渉が容易に可能な人物を選ぶ。
いわゆる著名人の保証は履行請求に際して揉めることが多いので、保証意思が明確に確認できる場合を除き避けたほうがよい。

③第三者提供の担保物件や保証人候補の選定に際しては、債務者との関係の濃淡に留意する。
無理に保証人や担保提供者となった者は、履行請求に対して抵抗する可能性が大きい。保証意思の確認と最悪シナリオに沿った十分な説明が重要である。

④担保物件や保証人は、事後の管理・フォローが容易であることを優先する。

⑤担保差入交渉が不成立のときは、緊急時の仮差押えが可能な資産の有無を調査しておく。
⑥取引関係は極力単純なことが望ましい。
複雑な取引関係は回収交渉が難航する原因になる。

貸金等根保証契約

金融機関が取り交わす個人との根保証契約においては、保証極度額
と元本確定期日を明確に定めなければならない

平成一七年四月施行の改正民法では、従前の包括根保証契約の慣習に制限を加え、新たに「貸金等根保証契約」の規定が設けられた。中小企業の経営者等に対して求めることが多かった包括根保証契約は、保証人に過重な負担を強いるものとして批判が強かったのでこれを改め、法整備が図られたものである。改正法の制定にあたっては大手行を含む一部金融機関から強い反対意見も出されたが、著しく不均衡な状態に置かれている保証人の立場を保護する観点からすれば、本法は妥当なものといえよう。その内容の主なものは、保証極度額を定めるべきこと、元本確定期日を最長五年の範囲内で定めること、法定の元本確定事由が規定されたことである。

「貸金等根保証契約」とは、不特定の債務を主債務とする根保証契約のうち、主債務の範囲に金銭の貸渡しまたは手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれる個人との契約をいい(民法四六五条の二第一項)、金融機関が通常取り交わす個人との根保証契約は、この対象になつて法の規制を受ける。まず、当該根保証契約には保証限度額として「極度額」を書面にて明確に定める必要がある。保証人に対して将来の債務負担の予測可能性を確保するための規定であり、一定金額をもって定める必要がある。それゆえ「主債務の八割」といった定め方は、極度額の定めがないものとして扱われ、契約自体が無効となる(同法四六五条の二第二項、第三項)。次に、改正民法は保証期間の概念にかえて、元本確定期日の規定を置いている(同法四六五条の三)。

当該期日の到来をもって保証債務の対象となる主債務の元本は確定する。確定時点は、期日の到来時すなわち確定期日の午前零時であり、期日当日に実行した融資には保証は及ばないので注意を要する。元本確定期日は契約日から五年以内の具体的な日付をもって定め、書面に記載されなければならない。五年を超える日を確定期日とした場合は確定期日の定めがないものとして扱われる。確定期日の定めがない場合には、保証契約日から三年を経過する日が元本確定期日となる。元本確定期日を後日合意により変更することは可能であるが、自動更新条項は無効と解されている。また、法定元本確定事由は、債権者による主債務者または保証人の財産に対する強制執行等の申立て、主債務者または保証人の破産手続開始決定、主債務者または保証人の死亡である(同法四六五条の四)。

保証

特に個人保証については保証意思の確認が重要

保証は、担保権の設定と並ぶ債権保全の有力な手段であり、人的担保と称せられることもある。担保権が特定財産の処分代金から優先的に弁済を受けられることに対して、保証は保証人の有する全資産あるいは実資力のすべてを対象に履行を迫ることができるが、そこから優先的に弁済を受ける権利はない。保証をとる目的も、物的担保の場合と同様、融資の返済が滞った場合に備えることにあるが、債務者の信用が不足している場合には、初めから信用保証協会など保証機関の保証がっくことを条件に融資に応ずることもある。保証契約は保証人と債権者間の合意で成立し、債務者と保証人間の保証委託契約の存在は要件ではないが、債権者が金融機関の場合は、債務者を含めた三者契約としていることが一般的である。

また、平成一七年四月の改正民法施行以降は、保証契約は書面で行うことが義務づけられている(民法四四六条二項)。個人を保証人とする場合には、保証履行の裏付けとなる資力がある者とすることが原則であるが、中小企業等への融資の際には、資力の有無にかかわらず経営者の保証を求めることが多い。これは万一のときに備えるというよりも、経営責任を自覚させ、それを返済の裏付けとするという意味合いが強い。この類の保証には「包括根保証形式」が用いられることが多かったが、前記の民法改正において包括根保証制度は見直され、個人保証については、保証極度額を設定すること、元本確定期日を定めることを柱とする「貸金等根保証契約」の規定が新設された。

個人保証の場合は、さらに、保証意思の確認をしっかりと行う必要がある。金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」においては、保証契約の内容、特に最悪のシナリオにおける場合の保証履行義務の発生につき、相手の理解レベルに合わせて十分説明することを要し、この説明を受けた旨の確認書を受け取っておくことが求められている。個人保証は、たとえ資力のある者であっても履行段階でトラブルとなることが多い。他人の債務を被るのであるから、保証人としても納得ができない面があれば抗弁したくなるのが人情であろう。したがって、意思確認はおろそかにはできない。

担保目的物の評価

金融機関職員自身も評価の仕組みを理解しておこう

担保目的物の評価ルールは、金融機関の自己査定マニュアル等で決められているが、最近ではその評価事務が関係会社等へ外部委託されていることが多いため、金融機関職員自身がじかに物件評価にあたることは少なくなっている。しかし担保評価の仕組みは、しっかりと理解しておくことが必要である。金融庁「金融検査マニュアル」によれば、担保評価額とは「客観的・合理的な評価方法で算出した評価額(時価)をいう」とされ、それをベースに処分可能見込額(当該担保物件の処分により回収が確実と見込まれる額)を算出するものとされている。

担保評価額の算出は、時価を基準に行われ、担保として最も一般的に用いられる不動産担保については、近隣の売買事例比較による評価、公示地価や基準地価あるいは相続税路線価を活用した評価のほかに、賃貸ビル等収益物件の評価については収益還元法による評価が望ましいとされ、処分可能見込額の算出に「掛目」を用いている場合には、それが「土地」および「建物」については評価額の七〇%、「国債」については評価額の九五%、「上場株式」については評価額の七〇%であれば妥当なものとされている。

不動産鑑定士による鑑定評価額など評価額の精度が十分高い場合には、その評価額を処分可能見込額とみなすことができる。裁判所による競売手続における売却基準価額は十分に精度が高いものと認められるが、売却基準価額の八〇%を下限とした買受可能価額での入札が可能となったため、買受可能価額を処分可能見込額とみなす扱いが認められている。本来、不動産の評価は、当該物件が最適の目的で利用された場合に、どの程度のキャッシュフローの造出が可能かを基準に算出されるべきと考えられる。

したがって担保目的物としての評価も、それを売りに出したときに買い手がどのような利用目的でいくらで購入のオファーを出してくるかを念頭に行うべきである。たとえば、すでに事業に供されている資産であればキャッシュフローの予測は比較的容易であるが、単なる更地は利用目的の想定次第で変わってくる。最適用途が住宅用地であるならば、造成後の住宅地としていくらの買い値がつくかを基準に、そこから造成費用等を控除したあとの額が適正な評価額になろう。それゆえ、鑑定評価を依頼する場合は、金融機関の担保処分についての考え方を明らかにしたうえで、鑑定を求めることが望ましいのである。

担保の考え方

担保は不測の事態に備えるものであり、担保価値は融資先の信用度に応じ保全に必要な額だけあればよい

担保をとる目的は、融資の返済が履行不能になる場合に備えて、債務者や第三者所有の特定財産に担保権を設定しておき、返済不能時にその特定財産を換金処分して、返済に充当することにある。つまり融資の回収手段としてのラストリゾートであり、あくまでも不測の場合に備えるものであるから、「担保目的物の価値は融資額に十分見合うものでなければならない」ことはない。このようなフル担保融資は「質屋融資」と呼ばれ、借り手の信用状態が判定できない状態で質種を頼りに資金を融通する場合に用いられる。かつては金融機関も、特に中小零細企業に対しては質屋融資を原則としていたが、最近は信用貸しの割合が増加しており、全額無担保の融資も目立っている。

かかる状況下では、融資審査において「この融資先に対してはどの程度の信用貸しを認めるか」あるいは「この融資を取り上げるについてどの程度の保全策を確保することが必要か」ということの的確な判断が求められる。そのためには信用格付制度の整備による信用リスクの適正な見積りが必要であるが、その体制が整わず、融資取上げごとにリスクを判定する体制のもとにあっては、フル担保の考え方に傾きがちになる。しかし優良融資を積極的に発掘するには、リスクテイキングのルールや考え方を明確にし、「とりあえず担保をとっておこう」「形だけでも担保を差し入れてもらおう」という安易な保全姿勢を払拭する必要がある。

金融機関は担保差入れについても顧客への説明義務を課せられており(金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」による)、曖昧な理由で担保差入れを要求することはできなくなっている。担保権は担保目的物によって違いがあり、預金や有価証券については質権が、不動産については(根)抵当権が、債権については譲渡担保が、一般的に用いられる。どのような担保がよいかは一概にはいえないが、目的物の評価額が判定しやすく、かつ評価額の変動が少ないこと、要保全額に対して評価額のボリュームが十分なこと、換金処分が容易であること、担保管理事務負担が少ないことなどを勘案して、最も適切な担保目的物を選択する。土地付きの建物は、一般的にこれらの要件を充足する物件として優れているので、担保として広く利用されている。

コンサルティング機能の発揮

顧客に対する経営相談や再生支援等には積極的対応が求められるが、顧客をミスリードしたり優越的地位利用と誤解されることのないよう留意する

金融円滑化法が施行されて以来、金融機関は融資先である中小企業や住宅ローン借入者に対して、貸出条件変更等の申込みにつき真摯に対応し、返済負担の軽減要請に応えるべく努力するとともに、経営改善、事業再生等にかかる適切なコンサルティング機能を発揮することが求められている。具体的には、融資先の抱える経営課題の把握・分析と事業の持続可能性を見極めたうえで、融資先にその課題を認識させ、かつ融資先自身の主体的な解決への取組みを促進させることが必要とされている。つまり、融資先からの返済条件変更(リスケジュール)申込みがあった場合、単純にその諾否を回答するだけでなく、融資先が資金繰り面の窮迫に至った原因を分析し、経営上の問題点を把握したうえで、その解決策を融資先と一緒に考えたうえで助言し、改善・再建スキームを策定してその実行を促すことが期待されているのである。

経営改善が見込まれる融資先に対して、その方向に沿った計画策定や方策の実現に支援を与えることはもちろんであるが、事業の持続可能性が見込まれない先に対しては、債務整理等を前提とした円滑な自主廃業への誘導等を促すなど、真に望ましいソリューション(経営課題を解決するための方策)の提案が求められる。経営課題の把握・分析においては、融資先の経営資源(経営上の強み、長所、利点等)の存在、それを生かした経営改善策の策定見込み、課題を克服するための経営者の能力と意欲、外部環境の影響、取引先や他の金融機関、従業員、株主等の協力姿勢を勘案する一方で、自行の取引地位や取引状況、金融支援負担能力等を勘案した支援協力スタンス(支援の限界)を明白にしておくことも必要である。

自らの経営体力を超えた支援協力はありえないからである。経営改善計画は融資先が自ら策定するものであるが、金融機関は改善の解決策が適正に織り込まれるよう助言し策定のサポートに努める。しかし融資先が自力で策定できない場合には、融資先の理解を得つつ計画策定に必要な資料を金融機関が作成するなど、計画策定への積極的な支援が求められている。しかし専門のコンサルタントではない金融機関が、融資先のこのようなニーズに的確に応えることは容易なことではない。

保有する人材やノウハウ、対象となる融資先の経営環境等、経営相談一つをとってみても簡単に対応できるものではない。金融機関の助言がミスリードにつながるおそれもあり、あるいは優越的地位利用があったことを理由にして、結果的に経営改善等が不首尾に終わった場合に、融資先やその関係先からクレームを受ける危険性もある。したがって「生兵法は怪我の元」にならないよう慎重にコトを進める必要があるし、場合によっては外部の専門家や機関を紹介し、あるいはそれと連携することも視野に入れるべきであろう。ただしこの場合は、コスト負担にかかる融資先の了解が必要である。