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キャッシュフロー

担保に頼らない融資判断の有力な分析ツール

企業は、赤字決算であってもそれだけでは潰れない。逆に、黒字決算であってもカネが回らなければ倒産する。つまり黒字倒産である。最近の企業経営審査のベンチマークとしては、利益よりもキャッシュフローが重視される傾向が強いが、それは、企業の経済活動が複雑化、重層化、国際化するにつれて、たとえ利益が計上されていても、それに相応するキャッシュ(現金やそれと同視できる随時換金可能な預金や有価証券等)の保有量が伴わないケースが増加してきたことにも起因する。粉飾決算は論外として、会計上の処理が正当であっても利益計上時期と現金収受時期がずれることにより、利益とキャッシュ量の乖離が大きくなることも多い。

企業の会計処理にはいくつかの方法が認められており、そのいずれを採用するかは企業の裁量であるから、「利益は経営者の意見である」といわれるが、CFにはそのような裁量の余地はなく、その意味で「CFは事実である」といえる。ここにCF分析が重視される理由があり、CFすなわち現金の流出入状況を正しく把握することは、いまや企業の財務分析上のメインテーマとなっている。CFは、本来の事業活動から生ずる「営業CF」、設備等への投資活動に係る「投資CF」、資金調達や返済に係る「財務CF」の三つに区分して計算される。営業CFと投資CFを合わせた「フリーCF」は企業が自由に使える資金の量を表しているが、成長途上にある企業では投資活動が活発な結果、フリーCFがマイナスになることも多く、その場合の資金不足部分は財務CFで補填される。

つまり、資金需要の旺盛な企業ということになる。「企業をCF中心に診る」ことは、担保に頼らない融資発掘のための有用な手段である。CF分析により企業の将来のCF状況を予測できれば、融資の安全性はそれだけ確保される。特に中小企業については、企業単体のCFに加えて経営者個人との資金のやりとりを勘案した総合的なCFにより、企業の経営体力を判断する必要がある。この点は金融検査マニュアルにおいても強調されているところである。スコアリング方式の小口融資などは、CF分析の切口からその適否を判定すべきであろう。

コミットメントライン

財務内容が優良で資金管理が行き届いている企業が対象

金融機関が取引先企業との間であらかじめ融資実行の極度額を約束しておき、企業側はその約束期間内であれば極度額の範囲内で随時必要な金額の借入れ、返済を繰り返すことができるという融資形態「コミットメントライン(融資確約枠)」契約の利用が活発化してきた。約束期間(コミットメント期間)は原則一年間であるが、それを超える期間設定も可能であり、金融機関は当該コミットメント(約束)の対価として所定の手数料(コミットメント・フィー)を受け取る。この手数料は融資枠の利用実績にかかわりなく受け取ることができ、実際の利用実績に応じた利息を受け取るだけの当座貸越契約に比べて金融機関の収益上のメリットは大きい。

当該手数料は、実質的に利息の一部であり利用実績が少ない場合には法外な利率となって利息制限法違反となるとの批判があったが、「特定融資枠契約に関する法律」(平成一一年制定)により利息制限法の適用を除外されることになった。ただし同法では金融機関以外の契約当事者(利用企業)を、会社法二条六項イ(旧商法特例法一条の二第一項)に定める「大会社」や資本金三億円以上の株式会社等に限定し、一般の中小企業等は対象としていない点に注意を要する。コミットメントラインは、これを利用する企業側にとっても、資金が必要になるたびに借入手続を経る手間が省け、また金融機関が事前に融資を確約するため資金繰りが安定するメリットがあるので、その利用は拡大する傾向にあり、シンジケートローンとの併用やコミットメント期間付タームローン(長期貸付)といったように、利用形態も工夫されている。

金融機関としては、多額の与信供与を将来にわたって約束するものであるから、対象企業は、信用格付が上位であり、かつ原則として資本金が三億円以上の無担保融資に耐えられる取引先に絞られる。資金使途に制限をつけないだけに、財務内容が優良で資金管理が行き届いている企業を選んで取り上げるべきであろう。コミットメントライン契約においても一般的に借入人の信用悪化は期限の利益喪失事由となり、かつ契約の終了事由となって金融機関は融資枠を解消することができるが、かような事態に陥れば、現実に融資された額については多額の損失負担を余儀なくされることになる。

DIPファイナンス

新たな融資分野として注目を浴びているが、融資リスクも大きい

金融機関の新しい融資分野として「DIPファイナンス」が注目されている。DIPとは占有継続債務者(debtor in possession)を意味し、経営者が経営権を維持しながら法の監督下で企業の再建にあたる米国連邦破産法の概念であり、DIPファイナンスもそのようなDIP企業に対する支援融資を指すものである。しかし日本では、法的再建企業等に限らず、広く過剰債務で経営不振に陥った企業に対する再建支援融資をDIPファイナンスと称している。

DIPファイナンスの目的は、経営不振企業であってもキャッシュフローを生み出す事業がある場合に、その事業をベースにして企業再建のチャンスを与えることにある。このような企業が再建を果たすためには、法的または私的再建手続の申立て後、再建計画が決定されるまでの間の運転資金やリストラ資金、計画決定後の設備投資資金、さらには再建計画を早期に終了させるための債務返済資金(出口融資:Exit Finance)などの資金調達が必要になり、その各段階に応じてDIPファイナンスの需要が発生する。法的、私的手続を問わず、DIPファイナンスは他の債務に優先して返済を受ける共益債権的位置づけにあり、それだけ信用リスクは軽減されている。

しかし、企業の再建が不首尾に終わることもあり回収懸念は残るので、リスクに見合った金利をとることが原則である。この種のファイナンスに応ずる金融機関は、以前は既往取引におけるメインバンク等が主体であったが、最近は従来の取引関係に関係なく、このようなリスクマネーを供与する金融機関が増えている。DIPファイナンスの取上げ判断のポイントは、事業再生の確実性、当面の資金繰計画、回収(Exit)の方向性、債権保全の十分性(共益債権化が前提)、適切な債務者情報開示の確保、経営者や株主の責任の明確化等である。

再建手続申立て後、計画が決定されるまでの間のファイナンスは、緊急避難的性格が強くリスクが大きいので、特に慎重な判断が求められる。メインバンクであった金融機関が行き掛かり上この種のファイナンスに応ずることもあるが、当該融資先には、一方で債権放棄等の金融支援による損失負担を余儀なくされることが多く、そこに追貸しをして二次損失を発生させるような事態は回避すべきであって、単に裁判所が共益債権として認めていることを頼りに融資に応ずることは不適切である。やむをえず融資に応ずるにしても、それが金融機関にとって経済的合理性に適うという「大義名分」が必要であろう。

ノンリコース・ローン

対象事業の内容、成算見込み、不首尾に終わった場合の事業の清算価値などを十分検討しよう

「ノンリコース・ローン」とは、債務履行の責任財産の範囲が限定されており、債務者の一般財産への履行請求権がない形態の融資であって、貸し手は、責任財産を処分しても回収できない融資元本が残った場合に、債務者に対してそれ以上の返済を求めることができない。この場合の「ノンリコース」とは「債務履行の遡及権なし」または「一般財産への履行請求権なし」の意味である。米国における融資はノンリコース・ローンが原則であるが、日本の金融機関融資の大多数は債務履行の責任財産の範囲を限定せず、債務不履行の場合には債務者の全財産を対象に履行請求できるものであり、ノンリコース・ローンはなじみの薄いものであった。

しかし最近は、たとえば「プロジェクト・ファイナンス」として利用され始めている。これは金融庁「金融検査マニュアル」の定義によれば「特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであって、その利払及び返済の原資を原則として当該プロジェクトから生み出されるキャッシュ・フロー(収益)に限定し、そのファイナンスの担保を当該プロジェクトの資産に依存して行う金融手法」であり、ノンリコース・ローンはそれに適合した融資形態といえる。なお、従来いわゆる「プロジェクト融資」と称されていたものは、特定事業への投下資金を融資するものでありながら、責任財産の範囲を融資先の一般財産に及ぼすこととされていたので、ここにいうプロジェクト・ファイナンスとは異なる。

ノンリコース・ローンは、融資先の信用を頼りに行うのではなく、返済財源となる対象事業等のキャッシュフローの獲得見通しを判断材料として取り上げるものであるから、その審査にあたっては、事業の内容、成算見込み、不首尾に終わった場合の事業の清算価値などを十分検討する必要がある。プロジェクト・ファイナンスの場合はシンジケートローン形式で融資に参加するケースが多いが、その場合でも融資判断はアレンジャー任せではなく参加する個々の金融機関独自で行うべきである。

シンジケートローン

デリバティブ・顧客への説明責任と顧客のリスク負担能力の確認が必要

デリバティブ(derivative)とは、通常「金融派生取引(商品)」と訳出されているが、スワップ(swap)、オプション(option)、フューチャー(futures)などの、国際的金融手法を取り入れた金融商品(預金・融資等)を意味する。スワップとは通貨、金利、債券等の債権・債務を交換することをいう。金融機関が関与するスワップ取引は、主として異種通貨の債権・債務を交換する「通貨スワップ」や、固定金利と変動金利、短期金利と長期金利など異なる金利の受払いを交換する「金利スワップ」である。

金融機関は原則としてスワップ取引の希望者を仲介し手数料を得る役割を果たすが、取引当事者の一方に事故が発生し義務履行ができなくなると、他方の当事者に発生した損害を填補する責任を負うことが多いので、仲介といえども信用リスク判断が必要である。融資絡みの取引としては、金利スワップ付融資等がある。オプションとは、ある金融商品を将来のある時期に「買う」(コール・オプション)または「売る」(ブット・オプション)ことを選択する権利のことで、この選択権の売買取引をオプション取引という。金融機関の扱うオプション取引は、通貨オプションと金融先物オプション取引である。

融資に絡むものでは、オプション付インパクトローン等がある。フューチャー取引(先物取引)は商品取引から発生したものであるが、金融機関が扱うものは金利・通貨等の金融商品で「金融先物取引」といわれ、将来の特定日に特定の金融商品を先物取引所で売買する取引を指す。デリバティブを利用した融資を顧客に勧める場合は、まず金融機関職員自身が商品内容を熟知しておくことは当然であるが、顧客にその商品内容を理解させるべく顧客のレベルに合わせて十分に説明し、かつ顧客が商品に内在するリスクを負担する能力があることを確認することが重要である。

シンジケートローン

与信判断は参加する個々の金融機関が行うべきもので、アレンジャーやエージェントはその責任を負わない

企業の資金ニーズに対し複数の金融機関がグループ(シンジケート団)を組成して同一の条件で融資を行うシンジケートローンは、欧米で発達した融資形態であり、日本においてはかつて大企業の大型融資案件向けに組成された「協調融資」にその原型をみることができる。現在のような形で取り上げられるようになったのはここ数年のことであり、大手行が自己資本比率の向上を意識して信用リスクの分散と資金効率のアップをねらい、自行の大型融資案件を他の金融機関へ振り分ける戦略を打ち出したことと、融資ニーズの乏しさに悩む地域金融機関が優良融資案件獲得のチャンスとして積極的にシンジケートへの参加に応じたことによるところが大きい。

シンジケートローンにおいては、借入人が指名する金融機関がアレンジャー(主幹事)になってシンジケートに参加する金融機関の融資団を組成し、また借入人との唯一の交渉窓口となって同一の融資条件での融資をまとめ上げる。融資の実行、返済・利払事務の管理はエージェント(事務代理人)が一括して担当するが、エージェントとアレンジャーは兼務されることが一般的である。借入人にとっては、融資案件の交渉窓口が一つになることで大幅な省力化につながり、かつ比較的短期間に大型の資金調達がまとまるメリットがあり、一方、融資団に参加する金融機関側にとっても、個別では取引チャンスの少ない優良新規企業との取引獲得につながることの魅力が大きいので、シンジケートローンの増加は著しいものがある。

しかし、シンジケートローンもいいことずくめではない。最近では借入人の信用格付がかなり劣るケースも顕著であり、借入人のデフォルトにより思わぬ損失を被る例が表れている。注意すべきは、シンジケートローンといえども借入人への与信判断はあくまでも個々の参加金融機関が行うべきもので、アレンジャーやエージェントは契約書に定められた事項以外はいっさいその責任を負わないことである。また、シンジケートローンには既収の銀行取引約定書等は適用除外とされている。シンジケートローンに参加する際は、事前に契約書をよく確かめておくことが必要である。

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